ある日。
隣で仕事をしていた久保さんが 急に笑い出した。
え?何か可笑しかった?
ふふ。思い出しちゃったんです。
だってえ。今、外、風強いじゃないですかぁ。風強いなって思ったら、この間の ほら なおさんが指差された話思い出しちゃったんですぅ。
え? あー。あれかぁ。
風の強い日。坂道を、自転車で必死に登っている私を、向こうから歩いてきたおじいさんが指を差す。
無言で。
履いていたプリーツスカートが捲れ上がって、パンツが丸見えだったのを教えてくれたのだ。
表情ひとつ変えず、黙って私のパンツを指差す。
それからプリーツスカートは一度も履いていない。
パンツを見せてしまったおじいさんには、申し訳ない事をしたが、そんなつまんない話で思い出してまで笑ってくれるなら 良し。としますかね。
仕事終わり。スーパーに行ったらレジ横にサンバイザーが売っていた。
今流行りのフェイスシールドではなく、日焼け対策用の真っ黒の、よく自転車に乗ってる人が使ってるヤツ。
おおー。
サンバイザーを見るたびに思い出す事がある。
それは、当時高校生だった次男と一緒に部活をしていたショウのママだ。
彼女の話はそれはもう、沢山ある。
私がこれまで会ったことのない、極めて不思議な人だ。
長男の時もそうだったが、子供の部活なのに、母達もやらなければいけない事が沢山あった。
息子達の健康管理はもちろん、応援、席取り、お茶だしなどなど。なので親同士もかなり密だ。
ショウのママは、外に出る時は必ず黒のサンバイザーをかぶる。顔を完全にシールドする。
なので全く表情がわからない。
ある大会の朝、車を置いて会場に向かう中、一台の車とすれ違う。部長のママだ。その車の助手席にはサンバイザーをすっぽりかぶっているショウのママの姿が。
手を振るのも忘れて、見入ってしまった。
車の中でもサンバイザーなんだ。
会場で部長のママが。
ちょっとぉ。ねぇ。見たでしょう。
あれ 職質受けるレベルよね。
今でも忘れない。
そりゃあさ、UVカットはされないけどもさ。
と言った部長ママの困った顔も忘れられない。